NPO法人ユートピア主催 認知症ケア講演会
愛情を伝える認知症ケアの技法   ユマニチュードを知ろう

 

◇平成28年3月26日(土)18:30~20:00  プラサヴェルデ3階会議室
◇講師 本田美和子氏(ジネスト・マレスコッティ研究所日本支部代表、国立病院機構東京

          医療センター総合内科医長)
◇司会進行 六車由実(NPO法人ユートピア理事、デイサービスすまいるほーむ管理者・

          生活相談員、介護民俗学実践者)

◇共催 社会福祉法人信愛会、社会福祉法人春風会、沓間水産株式会社(沼津魚がし鮨グループ)、有限会社ユニット、デイサービスすまいるほーむ
◇後援 沼津市


ユマニチュード講演会を終えて―ユマニチュードの技術で生まれてくるもの―
六車由実

 

  平成28年3月31日

 平成28年3月26日に、沼津でNPO法人ユートピア主催の第一回目の講演会が開かれました。第一回目としてテーマとしたのは、「認知症ケア」。しかも、「ユマニチュード」でした。
 数年前に医学書院の編集者さんから紹介をされた『ユマニチュード入門』でその存在を知り興味を持ち、そして、平成26年に新宿で行われたイブ・ジネストさん(ユマニチュードの創始者のおひとり)の講演に駆けつけて、深い感動と得心を受けた私たち。「人は人として遇されなければ人にはなれない」「人とは何か」という深い思想哲学に裏打ちされたケア技法であるユマニチュードを、第一回目の講演会のテーマにしたい!という思いを強くし、日本でユマニチュードの普及に尽力されている本田美和子さんにご無理をお願いしたのでした。すると、なんと、本田さんも、実は、私の「介護民俗学」に関心を持ってくださっていたとのことで、お忙しいのにもかかわらず、依頼を快諾してくださったのでした。そして、ユマニチュードと介護民俗学とのコラボレーションによる講演会が、このたび実現できました。
 当日は、当初の定員を超える220名以上の方にお越しいただきました(会場の都合で、50名以上の方のご参加をお断りをしなければならず、申し訳ありませんでした)。1時間半が本当に短く感じられるくらい、中身の濃い、具体的で、しかも本質的なお話しをお聞きできました。参加者のみなさんも本田さんのお話しに食い入るように聞き入っていて、メモも熱心にとっていました。熱気あふれる中で講演会は終了しました。

 講演会の前半は、本田さんに映像を使ってお話しをいただき、後半は、私からいくつか感想や質問をさせていただきながら、本田さんとのトークにより、更にユマニチュードについて深く知っていこう、という構成で進行しました。
 前半の講演の中でまず印象的だったのは、ユマニチュードとは、対人援助が必要な相手であれば誰に対しても使える技法だ、という本田さんの言葉でした。つまり、認知症の高齢者だけではなくて、障害のある方に対しても、子供に対しても、また救急救命を必要とする患者さんに対しても、あるいはホテル等のサービス業のお客様に対しても、ユマニチュードは有効だというのです。なるほど、「あなたは大切な存在である」というメッセージを相手に伝え続ける技法であるユマニチュードは、人と人とのコミュニケーションの基本だと言えるわけですね。
 その上で、本田さんが更に強調されたのは、「あなたは大切な存在である」というメッセージ、相手に対する愛情や思いやりを伝えるには、それを相手に理解できる形で伝える技法があり、ケアする人はその技法を学び、包括的に実施しなければならない、ということでした。かわいい自分の子供や愛する恋人に対しては、愛情表現の行為は意識せずとも本能的にできるが、何者なのかわからない相手に、しかも自分に対して攻撃的な相手に対しては、本能に任せたら、恐怖心によって話しかけなかったり、見なかったり、あるいは高圧的になったりしてしまう。それが人間として自然な行為なわけで、だからこそ、ケアをする人は、技術として、愛情を伝える技法を学ばなければならないというわけです。そして、学んだ多様な技法を、その場に応じて選択し、組み合わせて、包括的に実施していくこと、それがユマニチュードにおいて最も大切なことだと、本田さんはおっしゃっていました。つまり、技法がひとつひとつバラバラでは意味がなく、技法と技法とが繋がり、ひとつのシークエンスとして行われていくことで初めて相手に、「あなたは大切な存在である」というメッセージが伝わる意味のある技法になるのだ、ということなのです。
 ユマニチュードを実施した前と後の患者さんの様子を映像を見せていただきながらの、本田さんのそうしたお話しはとても説得力がありました。ユマニチュードの包括的な実施により「あなたは大切な存在である」というメッセージが伝わることで、患者さん、利用者さんの行為もどんどんと開かれていったのがよくわかったのです。それは明らかにこれまで介護の現場で行われてきたケアとは異なる光景でした。
 例えば、一般的にケアの現場では、入浴を拒まれる利用者さんに対して、どうしたらスムーズに入浴をしてくれるか、ということをあれこれ考えたり、試したりします。でも、それは結局、入浴介助という場面における対処療法にすぎません。もし、その試みで入浴ができればよしとしてしまいます。しかし、同じ利用者さんが、その時、入浴ができたからといって、口腔ケアを受け入れてくれるでしょうか。介助者は、また、口腔ケアについてどうしたらスムーズに受け入れてもらえるか、という問題と格闘することになります。
 ところが、ユマニチュードでは、たとえば入浴介助の場面で、人として大切にされている、というメッセージが伝わることで、ケアを利用者さんに受け入れてもらえるようになるわけですが、そうすると不思議なことに、入浴介助にとどまらず、口腔ケアであったり、食事介助であったり、それまでは拒絶的であった行為についても、受け入れられるようになっていくのです。つまり、利用者さんの行為も次々とつながって包括的に開かれていくのです。なぜそのようなことが起きるのか。本田さんは、こう説明してくれました。ユマニチュードは、入浴介助とか口腔ケアとか具体的な介助場面の「成功」を最終目的としているのではなく、常に、「人とは何か」「ケアする人とは何か」「人は最期まで人としてあり続けなければならない」という確固とした哲学のもとに、相手に対して、「あなたは人間ですよ」「あなたのことを大切に思っています」というメッセージを伝え続けているからだ、と。利用者さんは、そのメッセージを受け取り続けることで、自分が人として大切にされている、自分は人間なんだ、と実感できて、それによって心も体も、ケアする人に対して開かれていくのですね。それが、ひとりの利用者さんの中で連鎖的にケアが受け入れられていくことにつながるのだとわかりました。
 ところで、私が今回の講演会で、本田さんにうかがいたかったことがありました。それは、ユマニチュードを実施することによって、利用者さんや患者さんへの愛情が生まれていく、ということはあるのか、ということでした。
 ユマニチュードは、「愛情を伝える技法」「優しさを伝える技法」とされ(今回の講演会のサブタイトルも「愛情を伝える認知症ケアの技法」としました)、本田さんのお話しでも、ユマニチュードの実施により、ケアする人の愛情や優しさが相手に伝わることで、人と人としての関係性が回復し、ケアが受け入れられていく、ということは十分に理解できました。けれど、実際にケアに携わっている人たちが一番苦しんでいるのは、家族や利用者さんなどのケアの対象者に対して愛情や優しい気持ちを抱けない、ということなのではないかと思うのです。一生懸命ケアに取り組んでいればいるほど、それを拒絶されたり、攻撃されたりすることで、自分自身の中に愛情がないのかもしれない、と思ったり、相手を憎らしく思ってしまう自分を責めたりしてしまうことも多いのではないかと思うのです。だから、伝えるための愛情や優しさを持っていることが前提となってしまうと、かえってケアする人をより一層追い詰めてしまうことになってしまうかもしれない、という懸念が私にはあったのです。でも、ユマニチュードが、「人とは何か」「人は人として遇されなければ人になれない」という哲学のもとに、ケアする人と患者さん、利用者さんとの間に、本来あるべき人と人しての関係性を回復していく試みだとすれば、関係性の回復によって、患者さん、利用者さんの心と体が開かれていくように、ケアする人の心と体も開かれていき、そこに愛情が生まれていく、ということもありうるのではないか、と考えたのでした。
 そう考える根拠には、私たちの介護民俗学の実践での経験があります。私たちは、利用者さんたちの人生やその時代背景、あるいは彼らが生きてきた地域の歴史や民俗について、利用者さん自身に聞き書きをしています。聞き書きした内容は、文章にしたり(「思い出の記」等)、みんなで料理して再現したり(「思い出の味の再現」)、双六にしてみんなで遊んだり(「人生すごろく」)、形(作品)にすることでみんなで共有できるようにしています(詳しくは、『介護民俗学へようこそ!』、『驚きの介護民俗学』をお読みください)。そのような聞き書きを行うことで結果的に変わってきたことは、利用者さんとスタッフとの関係性でした。介助の場面ではどうしても介護される/介護するという一方的な関係に固定してしまうのですが、聞き書きの場面では、知らないことを教えてくれる人/教えられる人という関係に逆転するのです。しかも、その聞き書きの積み重ねにより、利用者さんとスタッフの関係、利用者さん同士の関係もその場その場でダイナミックに変化していき、デイサービスの雰囲気も、誰もが言いたい事を言えて、互いを思いやる家族のような居場所になっていったのでした。それは、デイサービスの中に、人と人としての関係が回復していったからだと思うのです。
 そして、聞き書きによって結果的に起こったことはもう一つありました。それは、スタッフの側が利用者さんへと愛情を抱けるようになったり、あるいは利用者さんの様々な言動に対して「問題視」するのではなく、「面白がる」ことができるようになったことです。例えば、暴力があったり、激しい言葉で攻撃してきたりする認知症の利用者さんについても、聞き書きでその方の人生がわかってきたり、聞き書きによって関係性が変わり、ケアを受け入れてもらえるようになってきたことで、スタッフたちは、その利用者さんを、愛しい大切な存在として受け入れられるようになってきたのでした。そして、理解しがたい言動があったとしても、それそのものを「面白い」と笑って受けとめていくようになりました。もしかしたら、ユマニチュードでも、同じようなことが言えるのではないか、そう私は思ったのです。
 私の質問に対して、本田さんは、明快にこう答えてくれました。「優しいと思ってもらうための技術を組み合わせていけば優しさは伝えられるけれど、極論を言えば、だからと言って必ずしも私は優しくなくてもいいんです。けれど、やっているとそうなります。なぜなら、優しさを伝えることによってもたらされるのは、関係性だからです」と。つまり、ユマニチュードによって人と人としての関係性が回復すれば、人は優しくなれるし、愛情も生まれる、ということなのですね。
 こう言い換えることもできるかもしれません。愛情がなきゃいけないんじゃなくて、まずはユマニチュードの技術から始めれば愛情は結果としてついてくる、と。そのことがわかって、私は本当に嬉しくなりました。技術を学ぶことによって、誰でも、相手との関係性が回復し、相手に愛情も生まれ、そしてケアも受け入れられていく。本田さんのお話しは、ケアに格闘する参加者のみなさんに大きな希望をもたらしてくれたのではないかと思います。本田さん、よいお話しを本当にありがとうございました。
 そして、今回の講演会に参加してくださった皆様、後援・共催をしてくださった皆様、会場にて様々なお手伝いをしてくれたスタッフの皆様、また、講演会のチラシを配ったり、口コミで広げてくれたり、陰ながら支ええてくれた多くの皆様に、心から感謝いたします。NPO法人ユートピアでは、これからもみなさまと共に、地域におけるケアを考えていくための講演会や研修会を企画していきます。今後ともよろしくお願いします。

(NPO法人ユートピア理事、デイサービスすまいるほーむ管理者、介護民俗学実践者


本講演会で紹介された書籍

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本田美和子、イブ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ『ユマニチュード入門』(医学書院)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DVD『ユマニチュード 優しさを伝えるケア技術』(医学書院)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六車由実『介護民俗学へようこそ!「すまいるほーむ」の物語』(新潮社)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六車由実『驚きの介護民俗学』(医学書院)